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​水は生命、そして未来のエネルギー

水と共に生きる都市 Vol.3

  • 執筆者の写真: OCI事務局
    OCI事務局
  • 13 時間前
  • 読了時間: 4分

〜技術・制度・環境・社会から探る「Floating Future」〜



第 3 回 研究テーマと課題 Floating Future プロジェクトの最大の特徴は、研究テーマが単一の技術開発にとどまらず、社会制度や文化的受容性まで含んでいることです。浮体都市を「現実の都市戦略」として成立させるには、船や建物の設計だけでは足りません。水上に暮らす人々の心理的ハードルや法律の整備、生態系への影響まで、幅広い要素を並行して解決する必要があるのです。


そこでプロジェクトでは、研究を 4 つの大きな柱(ワークパッケージ=WP)に分け、さらに 10 件の博士課程研究(PhD)を組み込んで、多面的に取り組んでいます。


本稿では、その研究テーマと直面する課題を整理して紹介します。


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研究テーマ(ワークパッケージ)


1. ガバナンス(Governance)

浮体都市を実現するには、既存の都市計画や法律を水上空間にどう拡張するかが大きな課題です。


• 水上における所有権の扱い

• 建築基準や安全基準の適用方法

• 港湾や航路と重なる場合の権利関係

• 税制や行政手続きの整備


Floating Future では、法律家や政策研究者が連携し、「水と共に暮らす社会」を前提とした新しいルールづくりを模索しています。


2. 技術(Technology)

浮体構造の設計・耐久性はプロジェクトの根幹です。


• モジュール型設計による拡張性(組み合わせて都市を形成できる)

• 波浪・潮流・強風といった厳しい自然条件での安定性

• メンテナンスやライフサイクルコストの削減

• 再生可能エネルギーとの統合(太陽光・潮流発電など)


MARIN を中心に実験水槽での模型試験やシミュレーションが進められ、実際の都市インフラとしての信頼性を検証しています。


3. 環境・生態系(Ecology)

浮体都市がもたらす環境影響は二面性を持っています。


• 懸念される影響:水質悪化、流れの変化、底生生物や魚類への影響。

• 期待される効果:浮体の下面が新たな生態系の場となり、多様な生物が定着する可能性。


NIOZ や Deltares の研究者が中心となり、水質調査や生物多様性の評価を行っています。これにより、浮体都市が「環境負荷」ではなく「環境再生」にもつながる可能性を探っています。


4. 社会的受容性(Social acceptance)

どれほど技術的に優れた都市でも、人々が「住みたい」「働きたい」と思わなければ実現はできません。


• 水上で暮らすことへの心理的抵抗や未知への不安

• 揺れや湿気、アクセスなど日常生活の快適性

• コスト負担や維持管理への懸念

• 景観や文化的な価値との調和


フローニンゲン大学をはじめとする社会科学者が、アンケートやワークショップを通じて住民や関係者の声を集めています。これにより、技術と制度の設計に「人の感覚」を反映させようとしています。




浮体都市の主な課題


研究テーマに沿って整理すると、浮体都市には以下の課題が見えてきます。


1. 技術的耐久性と信頼性

波風や潮流の中で、安全で快適に暮らせる構造をどうつくるか。


2. 環境影響の評価

自然環境に負担をかけず、むしろ生態系と共生できるデザインを実現できるか。


3. 制度・法規制の整備

水上の所有権や利用権、建築許可の仕組みをどのように確立するか。


4. 社会的受容性

住民が実際に「ここで暮らしたい」と思える生活の質をどう保証するか。


5. コスト・経済性

建設費や維持管理費を現実的な水準に抑え、持続可能なビジネスモデルを確立できるか。


これらはどれも単独では解決できず、技術・制度・社会・環境が相互に影響しあう複雑な課題です。




OCI の視点から


私たちが注目するのは、Floating Future が「技術だけでなく社会制度や文化的受容性まで同時に研究する」という点です。OCI が掲げる「Project Seatopia」もまた、災害対応拠点であると同時に、国際交流や環境再生を担う多目的拠点を目指しています。


もし制度や社会的受容性が整わなければ、どれほど優れた浮体技術も実装には至りません。逆に、人々が「ここで生きたい」と感じ、行政が制度を整え、環境的にも正の効果をもたらすデザインが可能になれば、浮体都市は次世代の都市戦略として現実のものとなるでしょう。


OCI にとっても、Floating Future の研究成果は「Project Seatopia をどう社会に受け入れてもらうか」という問いに答える貴重な参考となるのです。

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