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​水は生命、そして未来のエネルギー

水と共に生きる都市 Vol.1  

  • 執筆者の写真: OCI事務局
    OCI事務局
  • 10月1日
  • 読了時間: 6分

更新日:10月6日

〜オランダ「Floating Future」プロジェクト〜


オランダでは今、「Floating Future(フローティング・フューチャー)」という国際研究プロジェクが進められています。これは、浮体都市や浮体インフラをどのように社会に実装できるのかを、技術・制度・環境・市民参加といった多角的な視点から検討する大規模な取り組みです。


プロジェクトは、2024年1月から2028年12月までの5年間にわたり実施される大規模研究で、オランダ研究審議会(NWO)から約530万ユーロ(約8億円)の助成を受け、官民学と市民団体が一体となって進められています。


Floating Futureが目指す方向は、当財団の「海洋文明創造」というビジョンと密接に結びついています。OCIが進める「Project Seatopia」は「水」をキーワードとした循環型コミュニティにモデルを提案しており、災害対応だけでなく、国際交流や環境再生、平時の都市機能までも担える多目的かつ移動可能な水上拠点の可能性を探求しています。


オランダで進められている浮体都市の先進的な取り組みを知り、その成果や課題から学ぶことは、私たちが描く「海洋文明」の未来像をより具体的に形づくるための貴重な指針のひとつになるため、このプロジェクトを以下のテーマで5回に分けて紹介したいと思います。


第1回 プロジェクトの目的と意義

第2回 規模・期間・関与者

第3回 研究テーマと課題

第4回 市民社会とのかかわりとBlue Revolution Foundation

第5回 実例と将来展望


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第 1 回 プロジェクトの目的と意義

気候変動に伴う海面上昇や洪水リスクは、今や世界中の沿岸都市にとって避けられない現実です。従来の「堤防を高くする」「埋め立てる」といった対策には限界があり、持続可能性や環境負荷の点でも大きな課題を抱えています。


こうした状況の中、オランダで始動した国際研究プロジェクト「Floating Future」は、浮体 都市・浮体インフラを現実の都市戦略として実装することを目的としています。水と闘うのではなく、水と共に生きるという発想を具体化しようとするこの試みは、私たち一般財団法人海洋文明創造財団が目指す「多目的・移動可能な水上拠点構想」とも深く響き合います。




◾️プロジェクト概要


前述の通り、Floating Future は、2024 年 1 月から 2028 年 12 月までの5 年間にわたり実施される大規模研究であり、オランダ研究審議会(NWO)から約 530 万ユーロ(約 8 億円)の助成を受け、 官民学と市民団体が一体となって進めています。


中心となるのは、世界有数の海事研究機関であるオランダ海事研究所(MARIN)。さらに TU デルフト、フローニンゲン大学、王立海洋研究所(NIOZ)、応用研究機関デルタレスといった学術研究者が加わり、オランダのインフラ・水管理省やアムステルダム市・ロッテルダム市などの自治体、そして市民団体や企業も幅広く参画しています。


このように、研究者・政策立案者・市民が同じテーブルにつく協働体制は、プロジェクトの大きな特徴であり、まさに「社会実装」を視野に入れた総合研究といえます。




◾️プロジェクトの目的と意義


Floating Future の最大の目標は、浮体構造を「単なる実験的施設」ではなく、大規模に展開できる社会基盤として確立することです。浮体都市には次のような強みがあります。


• 順応性:水位変化や地盤沈下に追従できる。

• 可搬性:必要に応じて移設・再構成が可能。

• モジュール性:小規模から段階的に拡張できる。

• 多用途性:住宅、産業、エネルギー、物流、さらにはレクリエーションにも応用できる。


これらの特徴は、災害時の緊急対応拠点としても、平時の都市活動の場としても高い可能性を秘めています。当財団が推進する「Project Seatopia」においても、同様に防災と平時の価値創出を両立する水上拠点を目指しており、方向性は大きく重なります。




◾️研究領域と射程


Floating Future は、単なる工学的研究にとどまらず、以下の 4 つの領域を包括的に扱って います。


1. ガバナンス

水上での所有権、安全基準、建築許可、領域利用といった法制度の枠組みを整える研究。水上都市を現実に成立させるには、法律や政策面の明確化が不可欠です。


2. 技術

浮体モジュールの設計、耐久性、係留方式、維持管理、ライフサイクルコストなどを検証。波浪や潮流、荒天下でも安全性を確保することが課題です。


3. 環境

浮体構造が水質や流況に与える影響、生態系へのプラス・マイナスの効果を評価。 水上での活動が自然環境と調和できるかを探ります。


4. 社会的受容性

人々が水上で暮らすことをどう受け入れるか、文化的・心理的な障壁、快適性やコスト負担への認識などを調査。市民目線を取り入れることが不可欠とされています。


さらに、このプロジェクトには**10 件の博士課程研究(PhD)**が組み込まれており、それぞれの分野を深掘りしながら、理論と実証を結びつけています。




◾️浮体都市が直面する課題


浮体インフラのスケールアップには多くの課題があります。


• 技術的課題:耐久性、波浪下での安全性、快適性

• 環境課題:水質や生物多様性への影響

• 制度課題:所有権、許認可、安全基準の未整備

• 社会課題:住民の心理的抵抗感やコスト認識

• 経済課題:建設・維持管理コストと便益のバランス


つまり、浮体都市は「作れるかどうか」だけではなく、「社会に受け入れられるか」「持続的に運用できるか」が試されるのです。


一般財団法人海洋文明創造財団が構想する「多目的水上拠点」もまた、災害対応・国際交流・ 環境再生・未来技術の実証といった多面的機能を想定しており、Floating Future が進める「技術 × 制度 × 社会 × 環境の統合研究」は、まさに当財団が必要とする知見の宝庫と言えます。


日本の沿岸都市に適用する場合にも、同様の課題となる法整備、社会受容、環境調和等を乗り越える必要があります。 また、オランダが市民団体や自治体と連携している点は、当財団が日本国内外の市民社会・ 行政・研究機関と協力しながら進めようとしている姿勢と強く重なります。



◾️水と共に生きる


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Floating Future は、海面上昇や洪水リスクを背景に「水と闘う」発想から「水と共に生きる」発想へと舵を切る、画期的な取り組みです。その目的と意義は、私たちが進める「海洋文明創造」の理念に直結しており、浮体都市・ 浮体インフラは、防災・減災だけでなく、平時の暮らしや経済、文化、国際交流の基盤としても大きな可能性を秘めています。


次回は、このプロジェクトを支える 研究機関・自治体・市民団体などの体制とスケールに ついて詳しくご紹介します。



参考

※1 Floating Future公式サイト  floating-future

※2 Blue Revolution  bluerevolution.org


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