今治で未来と出会う『バリシップ2025』報告レポート
- OCI事務局
- 6月4日
- 読了時間: 8分
更新日:6月5日
2025年5月22日~24日に今治市で開催された「バリシップ 2025」に、持続可能な海洋文明の実現を目指す当財団として、脱炭素化・デジタル化に関する船舶技術の動向を把握することを目的として参加しました。世界中の最新海事技術や人との出会いを通じて、多くの学びと発見があり、本記事では、その様子をレポートします。
◾️バリシップとは?
※開催概要
名称:バリシップ 2025(Bari-Ship 2025)
会期:2025年5月22日(木)~24日(土)
• 10:00~17:00(最終日は 16:00 まで)
• 24日(土)は一般公開日
会場:テクスポート今治 他(今治市東門町 5-14-3)
主催:インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社
特別後援:今治市、今治市海事都市交流委員会
後援:国土交通省、(一社)日本船主協会、日本内航海運組合総連合会、(一社)日本造船工業会、(一社)日本中小型造船工業会、日本船舶輸出組合、(一社)日本舶用工業会、(一財)日本海事協会、(一社)日本海運集会所、(公社)日本船舶海洋工学会
入場料:無料(事前登録制)
来場者数(見込み):約20,000名
出展社数:約380社(24か国)
◾️バリシップの特徴
日本最大の海事都市・今治での開催:今治市は、造船会社や海運会社、舶用機器メーカーなどが集積する日本最大の海事都市であり、国内の商船建造量の約3分の1を占めています。
隔年開催の国際展示会:2009年にスタートし、2年に1度開催される本展示会は、国内外の海事関係者が最新技術や業界動向を共有する場として定着しています。
一般公開日(5月24日):最終日は一般公開され、家族連れや学生も参加可能。造船所や舶用メーカーの工場見学、船内見学会、体験イベントなどが行われ、次世代の海事人材育成にも寄与しています。
◾️主な展示内容
1.造船・舶用機器
最新の船舶設計、推進装置、電装品など。
2.環境対応技術
脱炭素化に向けた水素・バイオ燃料対応エンジン、排出ガス浄化装置など。
3.デジタル技術
自動運航システム、船陸間通信、遠隔監視システムなど。
4.セミナー・講演
業界の専門家による最新技術や市場動向に関するセッションが多数開催されました。その中の「衛星 VDES コンソーシアムセミナー」に参加することができました。
次世代の海上インフラである衛星 VDES(VHF Data Exchange System)に関する最新の取り組みや開発状況の紹介は興味深いものであり、今後の海上通信インフラの発展に向けた重要な情報交換の場となりました。衛星 VDES の実用化により、より安全で効率的な海上交通の実現が期待されています。まさに、宇宙(衛星)・陸上(基地局・管制)・海(船舶)の三位一体による高度な連携システムを体現してくれることになります。
◾️企業ブース見学
世界中の海事関係者が集合した『バリシップ』の会場内は、至る所でビジネスマッチングや最新技術の情報交流を目的とした人たちの熱気で溢れていました。
OCIメンバーは、特に船舶の造水設備や燃料、水処理システムなどの情報にアンテナを立て、関連企業のブースをまわることにしました。
1. 造水装置
先のブログ、『船の上で水をつくる!? 〜海水から真水を得る仕組みとは?』で取り上げた、蒸留法による造水装置を製造している会社ブースを訪れました。そこには、大きな船舶全体の需要を満たすことができるにも関わらず、随分コンパクトなサイズの造水装置が展示されていました。
この企業の創業当時の造水装置をネット上でみたことがあるのですが、当時は、かなり巨大な装置だったことを思うと、現在に至るまでの企業努力がここに濃縮されているのだと実感できます。担当者の方は、「省エネによる排熱の低温化に応えるため、中の圧力を半分にする新しい技術を開発し、効率よく燃焼させています!」と自社技術の魅力を熱く語ってくださり、蒸留式が近年抱える課題に対して、常に前向きに研究開発されていることがよくわかりました。
2. 次世代燃料
船舶燃料の面では、脱炭素化への取り組みが本格化しており、船舶の燃料転換に向けた準備が進められていました。次世代燃料としては、水素燃料とアンモニア燃料が注目されているようです。
今回の燃料に関しての情報収集は、思いがけない出会いから始まりました。今治に向かう岡山駅ホームで電車を待っている間、たまたま隣り合わせた方と親しくお話しさせて頂く中で、その方の会社ブースへのお誘いを頂きました。その会社は何と、水素燃料船、アンモニア燃料船向けのガスユニットを開発している企業さんでした。
・アンモニア燃料
温暖化対策に有効な次世代燃料として期待されるアンモニアですが、その毒性に大きな課題があります。いかに燃料船で発生するアンモニアガスを安全に燃焼処理し、無毒化するか。その問題を見事クリアした製品開発に成功したのだそうです。
また、掃気やタンクへの燃料出し入れの際に押し出される不活性ガス(N2)混じりのアンモニアガスを燃焼することで、船内および船外へのアンモニア排出の抑制にも成功しています。
2024年8月には、このガス燃焼ユニットを搭載した世界初のアンモニア燃料船「魁」が完成しました。
・水素燃料
水素は,燃料として使用した場合に排出する CO2がゼロであり,GHG ゼロエミッション達成にとっては,非常に魅力的な燃料であることがわかっています。『バリシップ』では、水素&バイオ燃料で航行する「HANARIA」の体験クルーズも目玉企画の一つとなっていました。
この企業は、水素燃料船向けのガスユニットの開発にも成功しています。燃えやすい特性を持つ水素を安全に燃焼処理する基礎研究に独自で取り組み、その基礎技術を確立したことで独自の水素ガス燃焼ユニットが完成したのだそうです。
お話を伺うに、アンモニアは燃えにくく、水素は燃えやすい。
燃焼ガスユニットと一言で言ってはみたもの、真逆の特性を持つ素材それぞれの製品開発に求められる知識や技術、工程は全く異なります。これらの特性を理解し、製品化する技術というのは真摯な研究の積み重ねにより成されるものであり、心から敬意を表したいと思いました。
他にも、各々の企業が開発した渾身の技術を搭載した機器や製品の多くが紹介されていました。ごく一部の見学ではありましたが、船舶における世界最高水準の技術と情熱が一同に介する場の熱気を十分に感じることができました。
◾️船舶見学
3日間開催された「バリシップ 2025」の最終日、私たちは今治港に寄港していた 2 隻の船を見学してきました。一般公開日となっていたこの日はあいにく小雨がちらついていましたが、ふだんあまり目にすることのないブリッジや機器類、居住区など、説明を受けながら船の内部を見ることができました。
1. 弓削商船高等専門学校の練習船『弓削丸』
全長 約 56.34 m
全幅 約 10.6 m
深さ 約 5.8 m
総トン数 約 370 トン
定員 60 名
航海速力 12.5 ノット
まずは、弓削商船高等専門学校の練習船『弓削丸』を見学しました。
しまなみ海道周辺には多くの島々がありますが、その一つである弓削島にあるこの学校では、学生たちが 5年間、航海士や機関士といった船乗りをめざして学んでいます。その実習に使われるこの『弓削丸』は 4代目ということで、できてからまだ2年目という新しい船でした。
船内には最新の設備が揃っていましたが、学生たちが授業を受けたり食事をしたりするための机と椅子が並んだ教室のようなスペースが印象的でした。学生たちはこの船に乗って、主には国内を何日か航海するそうです。
2. 水素とバイオ燃料のハイブリッド旅客船『HANARIA』
全長 33m
全幅 10m
総トン数 238 トン
使用燃料 水素&バイオディーゼル燃料のハイブリッド
定員 100 名(60 名程度推奨)
推進方法 電気推進(EV)
次に見学したのは、水素とバイオ燃料のハイブリッド旅客船『HANARIA』。
やや小ぶりな船ですが、外観はスタイリッシュで未来的なデザインでした。
国内初の水素とバイオ燃料を使用した旅客船ということで、燃料や発電の仕組みが船内のスクリーンで解説されていました。
私たちが訪れる前の2日間は体験クルージングもできたようですが、セミナーに参加したり、展示ブースを見たりで、今回はクルージングに参加することはできませんでした。しかし、ふだんこの『HANARIA』は週末などに関門海峡のデイクルーズやナイトクルーズができるようですので、ぜひ一度体験してみたいと思っています。環境にやさしい未来型の船で、皆さんも一度クルーズ体験してみてはいかがでしょうか。
◾️まとめとして・・・
今回のバリシップ参加を通じて、私たちは「海の未来」が着実に動きだしていることを実感しました。特に印象的だったのは、宇宙・陸・海をつなぐ衛星 VDES のような通信技術や、水素、アンモニア、バイオ燃料で走る次世代船といった、まさに“未来を乗せた船”たちの存在です。こうした技術や出会いから得た気づきをもとに、今後、財団として取り組んでいきたい方向性をいくつかご紹介します。
1.新しい技術との出会いを、次のアクションに
環境にやさしいエンジンや、スマート化された船の設備など、注目すべき技術が多く展示されていました。こうした技術をどう私たちの活動に取り入れていけるか、引き続き検討していきたいと思います。
2.国際連携のチャンスを広げたい
今後は、共通のテーマ(未来技術の推進)を持つ団体とのコラボレーションにも積極的に挑戦していきたいです。
3.「災害対応型・未来型の支援船」をさらに進化させたい
私たちが構想している多目的支援船のアイデアに、今回見たような最新の通信技術や省エネ機器を組み込める可能性があると感じました。次のステップとして、技術パートナーとの出会い、対話を進めていければと思います。
4.次世代への種まきも大事に
学生さんや若い世代と一緒に、海や船の未来を考えるワークショップなども開催できたらんと思います。今回のようなイベントで得たリアルな体験を、学びの場に変えていけたらと考えています。
展示会やセミナーへの参加他、実際に船の内部を見学し、関係者の皆さまから直接お話を聞くことができたことは、大変貴重な経験となりました。これからの舞台となる海や船をより身近に感じることができました。
海から学び、宇宙とつながる。そんなスケールの大きなヒントが詰まった3日間でした。
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