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​水は生命、そして未来のエネルギー

水と共に生きる都市 Vol.5

  • 執筆者の写真: OCI事務局
    OCI事務局
  • 10月28日
  • 読了時間: 6分

更新日:10月29日

〜実証から社会実装へ、「水上に生きる文明」への歩み〜



第5回 実例と将来展望


浮体都市の研究は、机上の理論から実際の社会実装へと着実に進みつつあります。


オランダでは、すでにいくつかのプロジェクトが現実の都市空間の中で試みられています。 それらは、Floating Future のような大規模研究の「先行モデル」であり、実験の成果を社会にフィ ードバックする重要な役割を担っています。


本稿では、代表的な 2 つの事例——Schoonschip(スホーンスヒップ) と Space@Sea(スペース・ アット・シー) を紹介し、さらにそこから見える「水上社会の未来像」と、私たち一般財団法人海洋文明創造財団(OCI)が描く将来展望を考えていきます。




◾️Schoonschip(スホーンスヒップ):市民が創った浮体コミュニティ 


アムステルダム北部、旧造船所跡地に広がる水上住宅地「Schoonschip」は、世界で最も持続可能な浮体コミュニティとして知られています。約 30 戸の住宅が連結された浮体モジュールの上に立ち、水上電力網や雨水再利用システムが整備されています。


このプロジェクトの発端は、行政でも企業でもなく、市民の発想でした。2008 年、テレビ制作者で活動家の Marjan de Blok 氏を中心に、「持続可能な暮らしを自分たちの手で作ろう」と集まった住民グループが立ち上げたものです。


建築家、エンジニア、都市計画家が協働し、環境負荷を最小限に抑えた設計を実現しました。住宅間は桟橋でつながり、太陽光発電を共有する「スマートグリッド(地域電力網)」が導入されています。 また、浮体基盤には生物が定着しやすい素材が用いられ、ミクロな生態系の再生にも貢献しています。


この事例が示すのは、浮体都市は「巨大開発プロジェクト」だけでなく、市民が主体となって創り上 げる生活圏にもなり得るということです。 社会が水上に開かれる第一歩は、こうした「人が暮らしを楽しめる小さな浮体社会」から始まるのかもしれません。


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◾️Space@Sea(スペース・アット・シー):欧州連携による産業プラットフォーム


もう一つの注目すべき事例が、EUの研究フレームワーク「Horizon 2020」の支援を受けたプロジェクト Space@Sea です。2017 年から2021 年にかけて実施され、オランダ、ドイツ、スペイン、ノルウェーなど 13 の国際パートナーが参加しました。


Space@Sea の目的は、洋上での新しい産業・居住空間の創出です。 単なる居住地ではなく、エネルギー生産、養殖、物流、研究拠点など、産業活動の多様な拠点をモジュールとして海上に展開する構想です。


開発の中心は MARIN(オランダ海事研究所)で、風・波・潮流を考慮した浮体モジュールの動的安定性実験が行われました。モジュールは六角形をベースに設計され、自由に組み替え・拡張でき る構造が特徴です。 この柔軟性が、未来の「水上都市群」や「海洋国家的ネットワーク」の礎になると期待されています。


また、Space@Sea は、海上生活のためのガバナンス設計と環境評価も研究対象に含んでおり、技術開発と社会制度の両輪で進められた点で、Floating Future の前段階とも言えます。




◾️実例が示す「浮体都市」の新しい価値観


Schoonschip は「人が暮らす日常の空間」を、Space@Sea は「産業と技術の空間」を示しました。 この二つの軸を合わせると、浮体都市がもつ潜在的な価値が見えてきます。


1. 適応する都市

陸上の制約を超え、海面上で自由に拡張・再構成できる都市。災害時には避難拠点として機能し、 平時には居住・教育・研究の場となる。


2. 循環する社会

エネルギー、食料、水の循環システムを内包し、陸と海をつなぐサステナブルな経済モデルを形成。


3. 共創するコミュニティ

市民・企業・行政・学術が共同で設計し運営する新しい都市運営の形。上からではなく「共に築く」 社会。


浮体都市は、単なる海上構造物ではなく、新しい文明の器となり得るのです。




◾️OCI の視点:日本における「海洋文明」の構築へ


OCI は、これらの海外事例を学びながら、日本から独自のアプローチで「水と共に生きる社会」を実現しようとしています。


OCI が掲げる「Project Seatopia」は、災害対応・国際協力・環境再生を一体化した多目的・移動可能な水上拠点の創造を目指しています。


例えば、

・災害時には救援・医療・物資支援の基地として機能し、

・平時には国際会議・文化交流・教育・研究の場として活用できる、

・ モジュール式の海上拠点ネットワークを構築する。


これは単なる構造物の開発ではなく、人・地域・文化・環境をつなぐ「海洋文明基盤」の形成です。


Floating Future や Blue Revolution Foundation が示すように、技術・制度・文化・市民社会を統合することこそ、未来の海洋社会の鍵になります。OCI は、その理念を日本およびアジア太平洋地域の実情に合わせ、海洋アジアモデルの構築へと発展させていく構想を進めています。




◾️将来展望:海上社会から「海洋文明」へ


未来の海上都市は、もはや SF 的な夢ではありません。気候変動、人口集中、エネルギー危機、食料不足といった現実の課題に対し、浮体技術は現実的な解の一つとなりつつあります。


今後 20〜30 年のスパンで見れば、

・都市の一部が海上に拡張し、

・災害に強い海上避難拠点が整備され、

・ 海洋資源や再生可能エネルギーを利用した自律型の水上コミュニティが誕生する、

そんな時代が訪れるでしょう。


しかし本当に重要なのは、技術そのものではなく、その上でどのような社会を築くかというビジョンです。私たち OCI が目指すのは、「海を分け隔てる境界ではなく、人類をつなぐ共有の場として再定義する」 という新しい文明観です。


浮体都市は、地球環境の中で人と自然が再び調和するためのプラットフォームです。そこでは、エネルギーも食料も文化も、循環と共生の原理によってつながっていきます。




◾️結びにかえて


Schoonschip の静かな運河から、北海に浮かぶ Space@Sea の実験モジュールへ、そして世界各地の研究・政策の動きへ...。


浮体都市の潮流は、確実に「新しい海洋時代」の到来を告げています。


OCI は、この国際的な動きを学びながら、「海洋文明創造」の道を歩み続けます。 海上に浮かぶ未来の都市は、単に災害や気候変動に備えるための技術ではなく、人類がもう一度 “自然と共に生きる”道を選び取る象徴となるでしょう。



参考

※Schoonschip Official Site

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