水と共に生きる都市 Vol.4
- OCI事務局

- 10月21日
- 読了時間: 6分
更新日:10月29日
〜「水上に生きる社会」を共に考える、もう一つの科学〜
第 4 回 市民社会との関わりとBlue Revolution Foundation
オランダで進行中の国際研究プロジェクト「Floating Future」は、浮体構造やモジュール技術の開発だけにとどまらず、「人々が水上でどう暮らし、社会はそれをどう受け入れるか」という、人間と社会の次元にまで踏み込んでいます。
この視点をプロジェクトにもたらしているのが、非営利財団 Blue Revolution Foundation(ブルー・レボリューション財団、以下 BRF) です。BRF は、Floating Future の共同発起団体(co-initiator)として、行政・企業・大学・市民をつなぐ“社会的エンジン”のような役割を担っています。
本稿では、BRF の目的、活動、そして市民社会との関わり方を詳しく見ていきながら、「海と共に生きる社会」を実現するうえで何が本当に必要なのかを考えていきます。
◾️Blue Revolution Foundation とは
BRF は、オランダ・デルフトに拠点を置く市民発の非営利財団で、水上空間を人類の新たな生活圏として持続的に活用することを目的に活動しています。設立者のひとりでありディレクターのRutger de Graaf-van Dinther 氏は、浮体都市の制度設計や社会受容性に関する研究を 20 年以上にわたって続けてきた研究者・起業家であり、同時に「Blue21」や「Floating Future」の中心人物でもあります。
BRF のビジョンは明確です。
“Living with water, not against it.”
(水と闘うのではなく、水と共に生きる)
この理念は、オランダの歴史そのものにも通じます。海面より低い土地に住む国として、水を押し返すだけではなく、水を「共存の場」「生きる基盤」として再定義する。BRF はこの思想を、研究・教育・政策・市民活動のあらゆる領域に広げようとしています。

◾️Floating Future での役割
Floating Future プロジェクトにおいて、BRF は社会的受容性(social acceptance)とガバナンス(governance)分野の共同リーダーを務めています。
技術的な研究が MARIN や TU Delft によって進められる一方で、BRF は以下のような役割を担います。
・社会の多様な声(市民、教育機関、企業、自治体)を研究過程に反映する。
・政策立案者と市民の対話を促進し、制度面の課題を共有する。
・研究成果を一般市民にも開かれた形で発信する。
・教育やワークショップを通じて若年層の関心を高める。
このように、BRF は「社会と研究をつなぐ架け橋」としてプロジェクト全体を支えています。
◾️共創(Co-creation)という考え方
BRF の特徴は、市民を「研究の対象」としてではなく「研究の参加者」として位置づけていることです。これを彼らは Co-creation(共創) と呼びます。
Floating Future の初期段階では、オランダ各地の市民、学生、企業関係者が集まり、「未来の水上都市」をテーマにしたワークショップが開催されました。
・参加者は小型の浮体モジュール模型を作り、配置や形を議論。
・エネルギー利用、交通、公共空間、緑化などをどう組み合わせるかを考える。
・子どもから専門家まで多様な意見を集め、「自分ならどんな水上都市に住みたいか」を可視化する。
このワークショップは単なるイベントではなく、社会的受容性の基盤を作るための実験でもあります。BRF はここで得られたデータを、社会学・心理学的な研究へと発展させ、Floating Future の PhD研究テーマの一部に反映しています。
◾️教育・啓発活動
BRF は教育活動にも力を入れています。
高校や大学の授業と連携し、学生が「浮体都市を設計する」という課題に取り組むプログラムを展開。設計したスケールモデルを MARIN の波動プールで実験することで、理論と体験を結びつけています。
また、オンラインでの教育コンテンツや公開講座(Climate Café、Floating Future Webinar など)も行われ、気候変動・エネルギー・都市再生を包括的に学ぶ機会を提供しています。こうした活動を通じて、若い世代が「海上に生きる」未来を自分事として考える文化を育てているのです。
◾️政策・法制度への橋渡し
BRF のもう一つの大きな柱が、政策・法制度への提言です。
オランダ政府のインフラ・水管理省や各自治体と連携し、浮体構造物の法的位置づけ、安全基準、環境規制などについて検討を重ねています。
この分野では、次のような実践的課題があります。
・水上の土地利用権・所有権をどう定義するか。
・建築許可・安全基準を陸上建築とどう整合させるか。
・公共インフラ(水道・電力・交通)をどう接続するか。
・災害・事故時の責任や保険制度をどう設計するか。
BRF は、これらの課題を「政策側」と「市民側」の両方の立場から議論し、合意形成を促す“媒介者”として機能しています。浮体都市を実際に都市政策に取り入れるには、このような中間組織の存在が不可欠なのです。
◾️公開情報発信と透明性
BRFは、研究過程を一般市民に広く公開することを重視しています。公式サイト(bluerevolution.org)では、Floating Future の進捗報告、ワークショップ記録、教育イベントの様子などをニュースレター形式で発信。市民がコメントや質問を送ることも可能です。
この「透明性」は、技術や政策に対する信頼を育てるうえで非常に重要です。新しい都市形態が生まれるとき、人々は「それが自分たちにどう影響するのか」を知りたい。BRF はその不安や疑問に正面から向き合い、“オープンサイエンス”の実践者としての姿勢を貫いています。
◾️OCI の理念との共鳴
私たちが BRF の活動に深い関心を寄せるのは、その取り組みが OCI の理念と驚くほど重なっているからです。
OCI は、「水と共に生きる社会」「多目的・移動可能な水上拠点構想」「Project Seatopia」を掲げ、災害対応・国際交流・環境再生を同時に担う未来の海洋基盤を目指しています。その実現には、技術だけでなく、人々の理解と共感を得る社会的プロセスが不可欠です。
BRF が実践するように、
・市民を研究の当事者として巻き込み、
・政府や学術界と連携し、
・透明な情報発信で信頼を築く。
この三つの姿勢は、OCI が目指す「海洋文明創造」における社会参画の理想形とも言えます。特に、BRF が進める「共創」「教育」「制度整備」は、OCI の「Project Seatopia」構想を国際的に展開していく際の重要な参考モデルとなるでしょう。
◾️まとめ
Blue Revolution Foundation は、Floating Future の社会的側面を担う中核的存在として、市民・行政・研究者・若者を結びつけながら、「水上で暮らす未来」を現実のものにしようとしています。
浮体都市の未来は、技術の進歩だけではなく、人々の理解・信頼・共感によって支えられます。BRF の活動は、まさに科学と社会のあいだに「橋」をかける取り組みです。
私たちも、海洋を新たな文明の舞台として捉え、災害対応・環境再生・国際協調のための「多目的水上拠点」を構想しています。オランダの取り組みから学べる最も重要な教訓は、海洋社会を築くとは、技術を作ること以上に、社会を育てることなのかもしれません。
参考
※Blue Revolution Foundation公式サイト https://bluerevolution.org/











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